フリーランスの翻訳家は稼げないって本当?

「翻訳はきつい割にお金にならない」

これは翻訳の仕事を始めて3年目を過ぎた頃に、私が出した結論である(現在は翻訳家になって7年目)。

格安の翻訳サービスがあふれ、AIも進化した今、納期は短く、単価は安く、高品質を求められる、というのが現状だ。

金融や医療など、特定かつ高単価の専門分野などを持たない私は、朝から晩まで、締め切りに追われ、休みなく、せっせと働いたところで、手元にはせいぜい20~30万しか入らない。

肩はバキバキ、腰はボロボロ、目は充血してチカチカする。

こんな働き方を続けたら、心も体も壊れると思った。

ちなみに当時の私のスペックはこんな感じ。

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・大学で英文学を学ぶ
・TOEICは935点
・大学卒業後、映像翻訳のスクールを卒業
・特定の専門分野は持たない
・未経験でも使ってくれる翻訳会社に複数登録
・文章と映像の翻訳を両方こなす
・毎日の労働時間は10~13時間(ほぼ休みなし)

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それまでの3年間は、がむしゃらに、生活していくために、いろんな仕事を引き受けてきた。

しかし3年目には「このまま、このような働き方を続けていても稼げるようにならない」という結論に至った。

「人より少し英語ができるから」という理由で、フリーの翻訳家として食っていけるほど、この業界は甘くなかった。

ちなみに、フリーではなく、オフィスに勤務する翻訳家であれば、もう少しマシかもしれない。

しかし、私のように特定の専門分野を持たず、ちょっと翻訳をかじってフリーの翻訳家になった者は、まず稼げないだろう。

言葉は悪いが、安く使い捨てられるだけなのだ。

このことに気付いて、私は自分の働き方を見つめ直した。

その結果、私の労働時間は減り、収入も上がった。

「在宅でできるし、英語も得意だし、”手に職”って感じで良さそう」

もしそんな理由で、これからフリーの翻訳家を目指す人がいるなら、稼げなくて、消耗していく一方の翻訳家にはならないでほしい。

この記事では、フリーの翻訳家として十分な収入を得るために、私がどのようなことを考えて行動したかをシェアしたい。

フリーの翻訳家が稼ぐための方法

私は、翻訳家がフリーでそれなりに納得のいく額だけの収入を得るには、以下の3つのやり方をとらなければいけないという結論を導いた。

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①稼げる専門分野を持つ(金融、医療、法律など)

②経費を出せるクライアント(大手企業など)の案件に絞り込んで、仕事をする

③自分で仕事を作る/ポジショニングをとれる場所を見つける
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そもそも翻訳は、この仕事が好きであったり、丁寧に仕事ができる人でないと続かない職業だと思っている。

しかし、「好き」という思いや、誠実な仕事ぶりが、イマイチ報われないのは、あまりに悲しすぎる現状だ。

とはいえ、業界自体は変わらないと思う。

むしろ、これから英語がそれなりにできる人はもっと増えるだろうし、AIもますます進化して、翻訳家の状況はさらに悪くなる一方だと思っている。

だったら、どうすればいいか。自分のコミットの仕方を変えるしかない。

①稼げる専門分野を持つ

翻訳の単価は分野によって大きく変わる。

当たり前の話だが、専門性が高ければ高いほど、単価は上がる。

「誰でもできる」と言っては語弊があるが、エンタテインメント系や一般文章は、総じて単価が低い。

反対に医療や特許、法律関連など高度な専門知識が要求される分野ほど、単価が上がる。

例として挙げるなら、特許分野で働いている知人は、翻訳歴3年目にして、年収700万円は稼いでいると言っていた。

治験の翻訳に携わっている別の知人も同等くらい稼いでいるようだ。

単純に私の3年目のときの収入の2倍以上である。

これが「専門知識」の価値の違いなのか、と私はがく然とした。

つまりは、翻訳を「稼ぐ手段」にしたいのであれば、とにかく高度な専門知識を徹底して磨くことだ。

しかし、これには、ある程度の時間と経験値が求められるので、それまでの期間は、専門知識を学べる場所で働くなり、専門の学校に通うなりする必要がある。

②経費を出せるクライアントだけを相手にする

翻訳の仕事を何年も続けていると、いろいろなところから、ふとしたきっかけで声がかかるようになる。

その結果、私もいくつか大手企業の翻訳プロジェクトに携わらせてもらったことがあるが、名の通った大企業は、予算にも余裕があるのか、通常の案件よりは比較的条件が良い(委託料は1.2倍~1.7倍増しくらいアップする)ことが多かった。

「お仕事をさせていただけるだけでもありがたい」という謙虚な気持ちを持つことは大事だし、
特にはじめの頃は、こういった気持ちから、
単価も安く、納期も短い案件を引き受け続けて、消耗してしまうことがあるが、「クライアントを選ぶ」こともフリーランサーとしては大事な能力である。

悪条件のクライアントに捕まると、アリ地獄のように過酷な条件下で、報われない案件をこなし続けなければいけない。

こんな働き方をしてしまえば、フリーランスといえど、ブラック企業にいるのと大差ない。

条件の悪いクライアントとは仕事をしない。

ということを徹底するだけでも、仕事の質は変わる。

何か実績と呼べる案件を数件こなしたら(実績がまったくないという人は、ランサーズとかクラウドワークスから始めるのでもいいと思う)、すぐに条件を切り替えて、良いクライアントを見つけること。

また、悪条件で仕事をしていると感じたら、今すぐに、その案件からは手を引くべきである。

なぜなら、次の項でも述べるが、翻訳家の代わりなんて、いくらでもいるのだから、自分に価値をつけられない場所で頑張っても、それは文字どおり無益だからだ。

③自分で仕事を作る/ポジショニングをとれる場所を見つける

私は、これをいちばんオススメする。

なぜなら、この方法であれば、納期も報酬も自分で納得がいくように決められるからだ。

このことを思いついたのは、まだフリーの仕事だけで独立できず、飲食店でアルバイトしていたときのことだった。

お店にはときどき外国人のお客さんが来ていたのだが、外国人のお客さんのために外国語のメニューや説明表を作ってほしい、と当時の社長から直接依頼を受けたのだった。

このときに、私は自ら条件を交渉し、これまでよりもずっとよい条件でお仕事をさせてもらった。

通常、フリーの翻訳家の多くは翻訳会社に登録していると思うが、翻訳会社には当然、たくさんの翻訳者が在籍している。

自分はその中の1人であり、正直いえば、いくらでも代わりがきく存在なのである。

担当者との信頼関係次第では、多少の交渉はできるが、それでも、基本的には相手の提示する条件に従わなければ「不要な翻訳者」になってしまう。

ところが、そうでない場所もある。

私が働いていた飲食店では、英語ができる人が誰もいなかった。そのため、私の英語能力が非常に重宝されたのだ。

翻訳ができる人が誰もいない環境に身を置けば、自分の能力には圧倒的な価値がつく。

私はそれを身をもって体感したのだ。

例えば、私はライティングや編集の仕事もしていたが、ときにはそうした会社で翻訳や英語関連の仕事を依頼されることもあった。

そのときの条件は、通常の翻訳会社から提案されるよりも圧倒的によかった。

なぜなら、自分で価格を決めて、交渉することができたからである。

そして、そこでの仕事が認められると、何か英語が必要とされることがあると、私に声がかかるようになった。もちろん、条件はすべて自分で納得いくように交渉した。

だから、あえて、翻訳会社でない場所に身を置く、というのは有効な手段であると思っている。

ときには、自分の翻訳を必要としてくれそうな場所や人を見つけ、自らオファーを出すのも有効だ。

例えば、外国人がよく訪れるようなお店のメニュー作りや、英語版のホームページやSNSの制作、海外旅行の代行予約や、メールの代行など、オファーできることは意外とあるものだ。

自分の能力を必要としてくれそうな場所はあるか、何を提示すれば、双方にとって良い結果になるかまずは身の回りを見渡してみよう。

意外な場所に、意外な仕事のチャンスが眠っているかもしれない。

フリーの翻訳家は稼げないは事実です

残念なことに、ただ何となく仕事をしていたのでは、フリーの翻訳家としては稼げない。

しかも一歩間違えば、ブラック企業の社員と大差ない働き方をすることになる。

だからこそ、フリーランスは常に戦略的でなくてはいけない。

ただ、クライアントの言われるがままに案件をこなして、消耗していないだろうか?

「稼げない」と思っている翻訳家の方や、これから翻訳家になって、しっかりと収入を得たいという方は、自分の働き方、クライアントとの付き合い方と一度ぜひ向き合ってみてほしい。